5:30出発 雪 気温1度
「那須」という地名は全国にある。「ナス」は土地を均す(ナラス)が縮まってナスになったという説。そこから「平坦地」を意味する。那須集落は山と谷に囲まれた一番奥まったところにある。この先に集落は「ナシ」という意味もあるようだ。栃木県の那須の語源のひとつに、アイヌ語の野を表す「ヌ」と麓や裾を表す「シュ」が組み合わさって「ヌシュ」となり、「ナス」と聞こえたことから地名になったという説がある。
「戸河内郷土誌考」では「延享3年(1746年)今より約240年前、田が5町3反2畝18歩あったことが『萬手鑑(よろずてかがみ)』(本田屋蔵文書)で明らかである」とあり、木地師が那須にやって来るずっと以前からあった歴史のある集落のようだ。
6:30風小屋林道終点
雪の舞う中、那須小学校跡を出発。気温1度で寒くはない。那須集落の朝は早い。すでに電灯が点いている。那須川沿いの集落の境まで除雪してあるが、その先は膝下まで埋まる雪、50cmはあるだろうか。早々にカンジキを履いた。入口からこんな調子では、先はどうなるだろうか。ほどなく風小屋林道に入る。新雪と柔らかい雪で、カンジキを履いても膝下まで埋まってしまう。ウラオレ谷の流れを聞きながら、暗闇を登って行った。風小屋林道終点まで1時間もかかってしまった。だんだんと薄明るくなってきた。
9:10藤十郎
十方山道標 |
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クリの木の爪痕 |
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林道終点から登山道へ降りると雪が締まっていて、埋まらない。スギ林の中へあまり雪が入り込まないのだろう。大きなスギが倒れ登山道を塞いでいた。昨年の12月にはなかったので、大雪で倒れたのだろう。鉈で邪魔な小枝を切り落して進んだ。作業小屋の先にもスギの大木が倒れていた。大木を簡単に倒す雪の重みは測り知れない。小屋を過ぎてスギ林が少し開けると、十方山の道標があり登山道は北方向へカーブする。ここで登山道を離れ、藤十郎から延びている尾根筋を登った。この尾根道はクマの痕跡が濃い。クマ棚や爪痕が残っている。登るに連れて雪が締まり埋まらなくなる。
8時過ぎ登山道と合流した。この辺りからブナが現れてくる。しばらく右側はスギ林になる。藤十郎の方向に林間から大きなブナが突き出ていた。高度が増すにつれて寒くなる。藤十郎が近づくと登山道は平坦になる。大きなブナが出迎え、ミズナラの大木が藤十郎の目印となる。高度1200m、温度計を寒気に晒してみるとマイナス10度。急激に気温が下がっているようだ。ミズナラの根元で休憩した。サンドイッチは凍っていた。ホットコーヒーで流し込む。手袋を外すと悴んで手先が痛い。雪で濡れた手袋の皮の部分が凍っていた。毛糸の手袋に替えた。
9:55中三ツ倉
10:25奥三ツ倉
10:55十方山
山道は藤十郎から西向きになる。中三ツ倉へ向かった。この道はブナの大木が多い。冬を除けば鬱蒼とした森林地帯だ。藤十郎から40分ほどで中三ツ倉。中三ツ倉の大岩は雪の中にあった。恐羅漢スキー場のアナウンスが、風に乗って時々聞こえる。奥三ツ倉方向は雪で霞んでいる。視界の利かない広い尾根道を歩く。雪はサラサラで埋まることはない。スノーハイクには持って来いの雪質だが、生憎の天気が残念だ。30分で奥三ツ倉。
論所付近 |
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倒木の横を通って十方山へ向かう。雪と西風で十方山方向は霞んでいる。時折、吹雪のように雪が舞う。地吹雪が稜線を縫うように流れる。論所付近の掘割は雪道を歩いてみるとよく分かる。掘割に差し掛かると雪道は抉れた様になっている。論所を過ぎると十方山への登りになる。十方山への道標が雪の中にあった。白黒の世界に赤の道標は目立つ。奥三ツ倉から30分で十方山。吹雪で視界は全くないが、気温はマイナス5度で先ほどより上がっている。少し下って、スギの陰で風と雪を避けて休憩した。天気が良ければ周辺を散策して見ようと思っていたのだが、早々に引き返した。
「十方山と奥三つ倉の鞍部を論所という。立岩側では堀越とも呼んでいる。ホリコシ谷は、この鞍部よりシシガ谷へ流れている小谷の呼称。この鞍部の水を大谷川側へ流すための掘割があることは、ここを歩いた人は誰でも気づく所である」(「西中国山地」桑原良敏)。
11:40奥三ツ倉
12:00中三ツ倉
12:50丸子頭
丸子頭 |
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カンジキの大きな踏み跡がもう消えかかっている。一瞬薄日が射すと、周辺が輝いて景色が一変する。中三ツ倉の稜線が少しの間現れた。12時中三ツ倉着。まだ時間があったので彦八の頭から那須集落へ降りることにした。中三ツ倉から北方向の丸子頭へ向かった。丸子頭は前三ツ倉ともいう。稜線に枝を吹き飛ばされたスギが一本、一際高く聳えている。場違いな所に種を落としたのか、環境に負けないで踏ん張っているのか。中三ツ倉から50分ほどで丸子頭。
「那須では、那須側に近い方から前三つ倉(丸子頭)、中三つ倉、奥三つ倉と呼び、略して前倉、中倉、奥倉とも呼んでいる」(「西中国山地」)
13:20 1152標高
13:40カザゴヤキビレ
14:20彦八の頭
藤本新道分岐 |
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彦八の頭 |
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丸子頭から急な下りになる。天気が良ければ恐羅漢スキー場や深入山が左手に見えるのだが。スキー場のアナウンスが頻繁に聞こえるようになる。1152標高の向こうに彦八の頭と北へ続く稜線が見える。1152標高はブナが林立している。1152峯から下ると彦八の頭が前方に現れ、右にウラオレの谷が広がっている。
藤本新道分岐の十方山道標を経てカザゴヤキビレへ降りた。藤本新道分岐からキビレの間はちょっとしたブナ街道のようだ。キビレから見るウラオレ谷はササが日に輝く美しい所だが、ササは雪の下で春を待っている。カメラのレンズがすぐに曇る。この辺りから映りがよくない。中三ツ倉から2時間余りで彦八の頭。山頂に「平成10年11月29日
亀の子会」の札が残っていた。
16:30 714標高
17:00ウラオレ谷入口
17:15那須小学校跡
山頂から那須集落へ降りる南東方向の急なスギ林の尾根を下った。小さな尾根が幾つもあり分かりにくい道だ。皮肉なことに、那須に近づくと日が射し始めた。高度が下がるつれ雪の中に足が沈む。714標高を過ぎて急な崖を、那須川の横を通る林道へ下りた。ウラオレ谷入口の手前だった。スギが倒れ、内黒峠から伸びている電線に掛かっていた。那須川とウラオレ谷の分岐に架かるウラオレ橋は雪に埋まっていた。橋でポカリスエットを飲むとシャーベット状になっていた。風小屋林道入口に今朝通ったカンジキの跡が残っていた。集落手前でカンジキを外した。静かな集落の通りを首輪をした犬がこちらに向かって歩いて来た。私に気づき、しばらく見つめていたが、右に曲がって去って行った。
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カシミールデータ
総沿面距離13.2km
標高差742m
区間沿面距離
那須小学校跡
↓ 1.5km
風小屋林道終点
↓ 2.3km
藤十郎
↓ 0.8km
中三ツ倉
↓ 0.7km
奥三倉
↓ 0.8km
十方山
↓ 1.5km
中三ツ倉
↓ 1.2km
丸子頭
↓ 2.0km
彦八の頭
↓ 2.4km
那須小学校跡
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