山歩き

二軒小屋…焼杉山…ケンノジキビレ…恐羅漢山
2016/3/26

二軒小屋…ケンノジ谷…トチ谷…焼杉山…ケンノジキビレ…旧羅漢山…恐羅漢山…二軒小屋

■焼杉山(ヤケスギヤマ)1225.2m:島根県美濃郡匹見町大字匹見字広見(点の記) (益田市)
■旧羅漢山(キュウラカンザン)1334m:広島県山県郡戸河内町横川 (安芸太田町)
■恐羅漢山(オソラカンザン)1346.4m:広島県山県郡戸河内町横川(点の記) (安芸太田町)

サバノ頭
イビセン谷を過ぎると林道に雪
十方山登山口
倒木に覆われた水越峠
林道崩壊地点も倒木
ケンノジ谷入口の橋
堰堤左岸も倒木の山
トチ谷に入る
県境尾根東の大ブナ
県境尾根上の大岩 三角点方向を見る
三角点付近から見たトチ谷北の尾根
三角点付近は雪と倒れたササがある
焼杉山北面を進む 向こうに旧羅漢山
ケンノジキビレ
登山道に出る
十方山を望む
旧羅漢山
広見山を望む
旧羅漢山から恐羅漢山へ
恐羅漢山
苅尾山、深入山を望む
ゲレンデから十方山を望む
雪の残る林間コース
6:10 二軒小屋 気温−5度 晴れ
 

6:55 十方山登山口
7:05 水越峠
7:20 ケンノジ谷
7:40 トチ谷
8:45 焼杉山
11:30 焼杉山出発
12:10 ケンノジキビレ
12:45 登山道
13:10 旧羅漢山
13:45 恐羅漢山
14:00 ゲレンデ上部
15:15 二軒小屋


 朝焼けの北方向にサバノ頭の陰が浮ぶ。気温マイナス5度で指が悴む。林道の法面にフキノトウが頭を出している。法面の上のスギが林道に倒れている。川沿いのアテツマンサクが咲いていた。崖から落ちる雫がツララになっていた。

 イビセン谷を過ぎると、林道は雪が被うようになる。倒木が林道を塞ぐ。雪の無い水溜りは氷が張っている。40分ほどで十方山登山口。旧羅漢山の道標の前を通り、水越峠に上がる。峠は倒木で覆われていた。

 峠から細見谷へ下る林道も、あちこちで倒木に覆われている。林道の崩壊地点も倒木で覆われていた。その先は林道を倒木が完全に塞いでいたため、いったん谷へ下りてケンノジ谷入口に出た。

林道法面のフキノトウ
雪面に落下したツルアジサイが多い トチ谷

 ケンノジ谷左岸に入るとすぐに堰堤があるが、ここも倒木の山であった。今年はスギの倒木が多い。ここまで見た倒木はいずれも植林地のスギであった。トチ谷合流点の先からトチ谷とケンノジ谷の間を進み、雪のトチ谷左岸を登る。

 日が射すトチ谷の気温は0度であった。雪面に枯れたツルアジサイがたくさん落ちていた。スギ林を登り、1時間ほどで県境手前の大ブナの所に出た。ブナを一回りし、まだ雪の残る県境に進む。県境上を北に進むと、大岩がある。

 そこから県境上を南北に何度か往復し、県境上の東側と西側に何度かずらしながら、行ったり来たりした。国土地理院の点の記情報にあるサルスベリ2本とナラにも注意した。サルスベリとあるのは、おそらくこの付近に多いリョウブと思われる。

横川川沿いのアテツマンサク

 3時間ほど行ったり来たりして粘ったが、三角点の発見には至らなかった。三角点標柱が立っていれば分かったと思うが、おそらく標柱は倒れていると思われる。当日はササが倒れて表面を被っていたことと、三角点付近は雪が所々残り、見つけられなかったと思われる。

 広見川の方へ下りようと思っていたのだが、探索に時間が掛かり過ぎたので、ケンノジキビレへ下りた。焼杉山北面はまだ雪が残っている。雪面の向こうに蒼く芽吹き始めた旧羅漢山が見える。1201ピークの平坦面を通り、ケンノジキビレへ下る。

 雪のキビレを過ぎると、ササが被い始める。東側のスギ林に入る。ケンノジキビレから30分ほどで雪の登山道に出た。雪の平坦面から急坂を登り、振り返ると十方山が見える。30分ほどで旧羅漢山。

マツボックリの食痕
マツボックリの食痕

 岩上に座り、しばらく春日山、広見山、五里山の峯々への展望を眺める。旧羅漢山北面は雪が多い。鞍部へ適当に下っていくと足を踏み外す。雪の下は空洞になっている。スギ林を抜けて登りに入ると雪が無い。30分ほどで恐羅漢山。岩に座って展望を楽しむ。

 北へ下ると、苅尾山の左手に風車が林立しているのが見える。空山の風車のようだ。20基ほどの風車が見える。「スノーパーク管理区域外滑走禁止」の看板の所からヒエハタ尾根の登山道を下る。途中からゲレンデ最上部に出た。

 ゲレンデにはまだ少し雪が残っている。南側の林間コースは雪が多く残っている。広葉樹にヤドリギが多い。よく見ると赤い実のものと黄色のものがある。ゲレンデを抜け松林の脇を下ると、マツボックリを食べた痕の実が落ちていた。エビフライと呼ばれるもので、リスやムササビがこのような食痕を残す。アカマツの周辺にはムササビがいるようだ。山頂から1時間半ほどで二軒小屋に帰着。

ケレンデ周辺にヤドリギが多い
ヤドリギ
ヤドリギ
ヤドリギ
ヤドリギ
フキノトウ



地名考

 「細見谷の上流部にノブスマ谷というのがある。横川の故隠居庄五郎氏と細見谷へゴギ釣りに同行したとき教えてもらった呼称であるが、ムササビの多い谷の意という。広島県の発行している五千分の一森林基本図には信隅谷と漢字で書かれている。

 『芸藩通志』の佐伯郡産物の項に、

 齬鼠 和田、麦谷など山中にあり、土人けふりはめという、大なる蝙蝠に似て、灰黒色、口中甚赤し、羽端に爪あり、夜出て空中を飛行す、近年村童を追うて、土人に獲られたり、所謂野衾なり

 とあり広島県の佐伯郡ではケフリハメと呼んでいたらしい。西中国山地の村里でムササビの呼称を聞いてみると、ソバオシキの呼称が圧倒的に広く使われ、東部へ行くにしたがって、バンドリという呼び方が出てくるが、ケフリハメは聞いたこともないしノブスマは知らないという。

 しかし、人里より遠く離れた細見谷のあの場所に、この地方では使われていないノブスマというムササビを意味する谷の名があるのは事実である。

 越谷吾山『諸国方言物類呼称』(安永四年)のムササビを引いてみると、

 畿内にて野衾といふ、東国にてももぐはと呼ぶ、西国にてそばをしきといふ

 小野蘭山『重修本草綱目啓蒙』には、

 モモグハ(東国)、ソバヲシキ(西国)、ノブスマ(古歌・畿内)、バンドリ

 とあり、ノブスマは近畿地方の呼称であることがわかる。木地屋とよばれている集団は滋賀県愛知郡小椋から出て全国の山地に分散居住し轆轤を使って椀や盆を作っていたとされている。
 細見谷には中流部にロクロ谷があり、木地屋が入っていたのは事実らしい。ノブスマ谷という谷の呼称を読み取ることによっても木地屋の存在が裏付けられた」(『西中国山地』桑原良敏)。


 ノブスマはヨブスマとも呼ぶようだ。コウモリもヨブスマと呼ぶ。ヨブスマソウというのもある。葉の形が飛翔するムササビに似ていることからこの名があるという。ヨブスマソウは関東以北に生える植物である。


 万葉集にムササビは三首あるが、ノブスマは無いようだ。衾(フスマ)の万葉集の用例は、「むし衾」(苧の夜具)、「まだら衾」(まだら模様の夜具)、「麻手小衾」(麻布の夜具)、「栲衾」(コウゾの夜具)などがある。

 野衾(ノブスマ)とか夜衾(ヨブスマ)は、野原を飛ぶ夜具、夜に飛ぶ夜具などの意であろうか。


 万葉集原文ではムササビは、牟佐々婢、武佐左妣、牟射佐此(ムザサビ)のように表わされている。ノブスマよりムササビの方が古い呼び名なのかもしれない。

 ムササビ、モモンガの方言に以下がある。

 ムササビ(近畿地方)
 モモンガ(関東地方)
 モマ・モーマ・モモ(高知・宮崎・鹿児島)
 ソバオシキ(中国地方・四国・九州北部)
 ヌレデ(岐阜県飛騨地方)
 バンドリ(中部地方から東北地方)
 晩鳥(毛皮商)
 オカツギ(中部地方の山岳)


 万葉集のアイヌ語に以下がある。

 桜皮巻き かにはまき 
 karimpa カリンパ サクラ皮

 毛無乃岳 けなしのおか 
 kenas ケナシ 林

 洲 ひじ 
 pis ピシ 浜

 跡位波立 あといなみたち 
 atuy アトィ 海


 次のようなアイヌ語がある。
 car-masasa チャル・マササ 口を・大きく開く
 par-masasa パル・マササ 口を・大きく開く
 sik-masasa シク・マササ 目を・見開く
 masasa マササ 見る・ひろげる
 masa=maka 開く

 エゾモモガ・バンドリ・ムササビのアイヌ語は以下。

 at アッ 皮(樹皮)
 ax アハ 皮(樹皮)
 at-kamuy アッ・カムイ 皮・神
 at-po アッ・ポ 皮・子(指小辞)
 hat ハッ 皮

 日常の会話では at-kamuy と丁寧な呼び方をする。日常会話では指小辞 -po をつけて atpo と言うことも多い(「分類アイヌ語辞典」)。


 ムササビは次のように考えられる
 masasa-at-po
 マササ・ッポ
 ひろげる・皮

 マササ・アッポ マササポ ムササビ の転訛。


 縄文時代、ムササビは食用とされていた。三内丸山遺跡から出土する哺乳類ではノウサギに次いで多い。三内丸山遺跡では哺乳類の7割がノウサギとムササビだという。


 「奥羽連峰の一帯では、ムササビをバンドリと呼んでいる。バンドリの猟には、マタギたちは満月の夜を選んでいる。梢の先を、月をバックにしてすかしてみると、バンドリが目を光らせ下を見おろしているのがわかる。バンドリを撃つのは、ここをねらうのが一番能率的なのである。

 月夜の晩に手足を広げ、ふろしきのようになり、木から木へスーッと飛ぶのを見ると、さながら忍者のようである。毛皮は防寒用で肉は食用になる。甘味のある赤肉で、味の旬は十一月ごろから十二月まで。

 種類は本州ムササビ、日光ムササビ、和歌山ムササビ、高知ムササビ、九州ムササビの地方変種もある。ムササビをまったく小さくした、野ネズミくらいの動物がモモンガである。モモンガをバンドリネズミと呼ぶ地方もある。北海道だけに生息するエゾモモンガがいることが、1921年学会に発表されている

 バンドリ ムササビ
 バンドリホロホロ ムササビ料理
 バンドリノハラコ ムササビの胎児

(『マタギ 消えゆく山人の記録』太田雄治)。

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カシミール3Dデータ

総沿面距離13.4km
標高差546m

区間沿面距離

二軒小屋
↓ 4.6km
焼杉山
↓ 1.6km
焼杉山
↓ 2.4km
旧羅漢山
↓ 1.0km
恐羅漢山
↓ 3.8km
二軒小屋
 

 
焼杉山南のブナ
焼杉山北面から見た旧羅漢山
旧羅漢山南面から見た十方山
旧羅漢山から見た半四郎山、広見山
旧羅漢山北面から見た恐羅漢山
空山の風車 恐羅漢山北面から
 
登路(「カシミール3D」+「地理院地図」より)