山歩き

カレイ谷…アシ谷乗越…安蔵寺山…イゲン谷
2012/4/28

三坂橋…笹山…カレイ谷…タタル床鈩跡…アシ谷乗越…寺床…安蔵寺山…展望所…狼岩…伊源谷…三坂橋

■安蔵寺山(アゾージヤマ)1263.2m:島根県日原町大字左鐙字高領芦谷(点の記) (益田市)

笹山集落
右岸の林道に入る
ナメラガ谷
ヒキヤケ
タキノ谷
オオガヤ
林道終点
カジヤ谷落口
左岸のワサビ
右岸の石垣の上を進む
ツチオトシ落口左岸の懸崖
崩れたコダキへの入り口
広いサワグルミの谷
左岸の石垣
左岸の小谷の石積み
ゴルジュに入る
シャクナンソウ谷入り口の小滝
シャクナンソウの懸崖(タキ)
滝の左岸を巻く
水源のトチノキ
アシ谷乗越南の鞍部
樹木無い寺床
寺床西側のコバイケイソウ群落
安蔵寺山
展望所から見た香仙原
狼岩
登山道はヒノキオの谷を渡る
新コース分岐
登山道から林道へ
紙祖川堰堤
ワサビ
6:00 三坂橋 晴れ 気温4度
 

6:10 笹山
6:55 タタル床鈩跡
8:15 シャクナンソウ谷
10:30 アシ谷乗越
10:05 寺床
11:15 安蔵寺山
11:20 展望地
11:35 狼岩
12:30 ルート分れ
13:25 伊源谷橋 
13:50 三坂橋


 釣り人が入る三坂橋近くを出発。笹山集落に広い土地が造成されていた。笹山橋からカレイ谷右岸の林道を進む。ミツバウツギはまだつぼみだが、ワサビやヤマナシの花が咲いている。植林地の道に入る。ナメラガ谷は岩盤の谷。植林地の中にもワサビの花が咲いている。

 石垣のあるヒキヤケ谷のすぐ先にタキノ谷が下りている。谷を大きい堰堤が塞ぐ。この辺りは「加冷谷木地屋墓」のところである。チドリノキが花をぶら下げる。オニグルミが葉を伸ばし始めている。オオガヤは石積みのある小さい谷である。カレイ谷左岸は山全体が植林地でヤゲンジ谷が下りている。

ミツバウツギ


 カジヤ谷落口の手前で林道はオオガヤへ上がっているが薮となっている。林道終点からカレイ谷右岸を進むと谷の分岐に出て、火の用心のプレートがある。この辺りをタタル床と呼び、タタル床鈩跡がある。「〜床」と呼ぶ地名は西中国山地では川の奥の水源にある。「キジヤ床」「寺床」「茶屋床」などがある。

 谷の分岐から西の谷に入る。大きいカツラの木がある。左岸の岸にワサビの葉が一面に出て、ワサビ畑のように覆われていた。右岸から下りる涸れ谷に目立つ大きいカツラがあった。谷を進むと右岸に石垣が残っており、ワサビ田へ入る道であったようだ。石垣の上を進むとツチオトシの谷に出る。入り口と奥に懸崖がある。この辺りはゴーロと倒木で歩きにくい。

 谷にワサビの葉が点々と続く。コダキへの入り口の分岐の先端が崩れていた。そこから先は広い谷となり、葉を出し始めたサワグルミが多い。左岸に石積みが残っている。広い川原にサワグルミの幼木が伸びる。だんだんと谷が狭くなる。左岸の小谷に大きい石積みがある。この辺りは谷全体がワサビ田であったようだ。

オニグルミ


 滑りやすいナメラのゴルジュを越えると、前方に小滝が見える。シャクナンソウ谷である。シャクナンソウ谷に少し入ってみた。奥が見えるところまで入ったが、小さい涸れ谷であった。入り口の左岸の上に真ん中が窪んだ岩がある。岩から数本の幹が伸びていた。この岩をシャクナンソウの懸崖(タキ)と呼ぶ。

 ワサビの残る谷を進む。ヤマグルマの葉と実が落ちている。エンレイソウの花が咲いていた。岩の谷を進み、滝の所に出た。左岸を巻く。滝から上は緩やかな谷になる。オオカメノキの花が咲き始める。ワサビの花が谷に点々とある。尾根直下までワサビがあった。

 大きいトチノキを過ぎて、アシ谷乗越南の鞍部の登山道に出た。「芦谷合流点」の道標があり、安蔵寺山まで1.6kmとある。一服して登山道を進む。1257ピーク東に道標があり、その先に1257Pに向かってピンクのテープが続く。少し下ると道は湿地のようにぬかるむ。中峰を通り寺床へ下る。

エンレイソウ


 寺床には安蔵寺山由来の説明板がある。看板の西側にコバイケソウの小群落がある。周辺はササ原で樹木が少ないが、ブナの森であった昔は大きい湿地であったと思われる。「植生復元中」の島根県の看板がある。そこから間もなく香仙原への分岐を過ぎて安蔵寺山に着いた。

 山頂から展望所へ出た。目前に赤土山、香仙原への峯が続く。その奥から右手に高岳山、法師山、十種ヶ峰、秀峰の青野山が続く。左手に弟見山、莇ヶ岳、長野山、馬糞ヶ岳、白旗山、大将陣山、小五郎山、羅漢山、鬼ヶ城山、茅帽子山、寂地山、冠山、広高山などなど、展望が良かった。

 展望所の看板に次の植生が記されている。ブナ、ミズナラ、アシオスギ、カエデ類、シデ類、オオカメノキ、クロモジ、チマキザサ、オクノカンスゲ、ツルアジサイ、サルナシ。

ハウチワカエデ


 イゲン谷へ下る。10分ほどで狼岩に出た。ここから南東400mとところにオオゼリの鞍部がある。狼岩のすぐ下に大天狗岩がある。登ってみると、冠山、寂地山への展望が良い。急な山道を下ると、道はヒノキオとオオゼリから下りる谷の手前でヒノキオ谷を渡り、イゲン谷の左岸を下る。

 イゲン谷左岸を下ると「安蔵寺山新コース」の分岐に出る。新コースはカクレバヤシの右岸を上がっている。新コースを上がったことは無いが、おそらく1257ピークに出る道と思われる。分岐からイゲン谷右岸に渡り、林道に出た。林道に道標があり「夢ファクトリーみささ」まで2.3kmとある。

 途中、キヘイミチへ下りみた。キヘミチは小さい崖のある小谷であった。伊源谷橋手前の林道の真ん中で犬が番をしていた。盛んに吠える。家人が出てきて少し立ち話をしたが、昔はイゲン谷まで大きなマスが登り、潜って突き刺して取っていたと言う。 

ヤマナシ
ミヤマカタバミ
ヤマウグイスカグラ
チドリノキ
イチリンソウ
フデリンドウ
ハシリドコロ
ネコノメソウ
ヤマネコノメソウ
コガネネコノメソウ



地名考

 日本の縄文語(日本列島共通語)を受け継いだのは、アイヌ語系民族であった。

 アイヌ語によって西日本の古い地名が合理的に説明できることは、その一つの証でもある。

 西中国山地にアイヌ語地名が存在することは、その地名は縄文時代から呼ばれていた可能性のある地名と思われ、またアイヌ語地名が存在することは、その地名の周辺に縄文遺跡が存在することを予見している。

 周辺には中ノ坪遺跡(三葛)、陣ヶ原遺跡(三葛)、中ノ原遺跡(三葛)、殿屋敷遺跡(三葛)、雀堂遺跡(笹山)などの縄文遺跡がある。

 三葛の熊祭り

 「三葛地区には『熊祭り』が行われていたともいい、昭和57年(1982)ごろ大谷瀧次郎(故人)から聞き書きしたものを列記しておく。それは熊を捕った場合、その狩猟具の槍などを用いて熊の周りを囲むように七本立てなければならない。数が足りない時は木棒でも立てて補う。熊の月ノ輪の部分はお天道様には向けてはならず、頭を正面に向けて舌を切り取って供える。そして『籠宮の乙姫様に肴を差し上げんと思って討ったら、天の犬をあやまって捕ってしまいました。どうぞ許してください』そして『アブラウンケソー』と三回唱えたという。なぜ熊祭りをしなければならないかというと、熊野権現様のご幣が一本ずつ倒れるから、そのお使いである熊を供養しなければならないからであるという…熊を山の精霊としてとらえていることは確かであり、おそらく根底には山の神自身であったのではないかと思う」(『匹見町誌・遺跡編』)。

 秋田県阿仁のマタギがクマを獲ったときの唱えことばがある。

 「大モノ千匹 小モノ千匹 アト千匹 タタカセ給エヤ ナムアブランケン ソハカ」(『マタギ 狩人の記録』)。

 三葛の大谷氏が唱えた「アブラウンケソー」は東北マタギの呪文そのものである。三葛にはマタギに似た狩の風習が昔からあったと考えられる。

 「当町地方の猟師が、大グマを射とめた時には、アブラウンケン・ソワカと、呪文を唱えた…東北地方のマタギは、大グマを射とめた際、アブラウンケン・ソワカと三度唱えたという。当地方のはこうした呪文の片言が、たまたま残存しているものらしい。クマを捕獲すると、天候が険悪になるものと、百谷辺では信じられておる。現在ではクマの数は、次第に減っていく運命にあって、当町では道川の三ノ谷や、三葛の伊源谷に、クマの穴があって住んでいるらしい」(『石見匹見町史』)。

 三葛の「熊祭り」とマタギの唱えことばが似ていることは、匹見地域では狩の際の古い風習が残されてきたと考えられる。

 中ノ坪遺跡(三葛)

 「大型剥片材質のほとんどは,冠山系の角閃石安山岩質のもので、本地区の上流部には玄武岩・流紋岩あるいは凝灰岩質のものが産出される。大量の石器類の出土には,こうした産地との近隣性が大きく影響しているものと考えられる」(『中ノ坪遺跡』)。

 「石器類では石槍・磨製、打製石斧・凹石・石錘・石匙・石銛・スクレイパー・石鏃などが出土した。うち石鏃は400点余りと多く、狩猟に力点をおいた生活誌であったことを垣間見せるとともに、石匙も28点と注意すべき数量である。これらの石材の大半は安山岩を用いているが、5%は黒曜石であり、そのうち7割は乳白色をした黒曜石である。剥・砕片を含めて四千点余り出土した大半の安山岩質のものは、直線にして8キロの広島県廿日市市吉和の冠山産の可能性が強い…匹見の縄文文化の豊富さの要因は、落葉広葉樹帯で食料確保が容易であったということも然ることながら、こうした石材産地と接近性にあったといってよいだろう」(『匹見町誌・遺跡編』)。

 匹見町の縄文遺跡では、中ノ坪遺跡の石鏃の出土が飛びぬけて多い。この地域では縄文時代から狩の関わりが多かったと考えられ、それがこの地域の地名に反映していると思われる。



●シャクナンソウ谷(カレイ谷水源)



●シャクナゲ谷(カレイ谷水源)


 「やがて渓は狭まり、ナメラを登ったところで右岸よりシャクナゲ谷が落ちている。この付近の右岸を見上げると懸崖があり『シャクナンソウの懸崖(タキ)』と呼ばれている」

 この懸崖は真ん中が窪んで、岩から数本の木が出ている。


●ツチオトシ
 

 谷の入り口左岸に懸崖がある。川口付近はゴーロと倒木で歩きにくいところである。


●カレイ谷
 


●コカレイ谷
 


●アキラガサコ(カレイ谷左岸)
 


●ヤゲンジ谷(カレイ谷左岸)
 


●ヒキヤケ


 ヒキヤケ、ヒキアケの地名は西中国山地に多い。


●タキノ谷
 


●コエキ(カレイ谷水源)
 


●コダキ(カレイ谷水源)
 


●オオガヤ(カレイ谷右岸)
 


●狼岩(ヒノキオ水源の右岸)
 


●オオゼリ(イゲン谷水源の鞍部)
 


●安蔵寺山(アゾジ)
 


●安蔵寺山(アゾウジ)
 


●安蔵寺山(アンゾウジ)
 


●アゾウジ谷 
 


●ヒノキオ 
 


●カクレバヤシ(谷)
 


●ヤガタガ谷 
 


●伊源谷(イゲンダニ) 
 

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カシミール3Dデータ

総沿面距離13.5km
標高差821m

区間沿面距離
三坂橋
↓ 2.3km
タタル床
↓ 3.6km
アシ谷乗越
↓ 1.6km
安蔵寺山
↓ 6.0km
笹山橋
 

 

 
 
三葛の「熊祭り」
昭和57年(1982)ごろ行われた熊祭り (『匹見町誌・遺跡編』より)
匹見川水系縄文遺跡の石鏃数
三葛の中ノ坪遺跡の石鏃が突出して多い
シャクナンソウの懸崖(タキ)
 
展望所から
    弟見山                 高岳山                  法師山    十種ヶ山   青野山
                    香仙原
展望所から
馬糞ヶ岳  長野山                       恋路山  小峰山           莇ヶ岳     弟見山
                                                                        香仙人原
展望所から
     鬼ヶ城山    横山              羅漢山 小五郎山 法華山                      大将陣山→
大天狗岩から
        広高山 後冠   冠山 寂地山                          茅帽子山           鬼ヶ城山→
登路(薄茶は900m超 茶は1000m超)  「カシミール3D」+「国土地理院『ウォッちず』12500」より