山歩き

大谷川…十方山…奥三ツ倉…キリイシのタキ 2006/12/24
大谷川入口…十方山登山道合流(コノタのギシ)…十方山…奥三ツ倉…1215P…キリイシのタキ…カヤノガ峠…大谷川

■十方山(ジッポウザン)1318.9m:佐伯郡吉和村字吉和西(点の記) 廿日市市

水の減った立岩貯水池
山道の入口
日が差す大谷川

キリイシのタキ

林間から覗く十方山
三ツ倉と冠山
十方山登山道
立岩山と立岩貯水池
山頂への雪道
五里山
恐羅漢山
十方山
奥三ツ倉
奥三ツ倉の大岩
キリイシのタキへ下る尾根と立岩山
尾根道のブナ林
キリイシのタキから見た十方山
立岩山と立岩貯水池 展望岩から
7:35 大谷川入口出発 晴れ 気温-5度
 
 

8:20 712ピーク
10:30 1085ピーク
10:50 十方山登山道
11:30 十方山
12:10 奥三ツ倉
12:45 1215ピーク
13:25 展望岩
14:15 882ピーク
14:50 カヤノガ峠
15:05 大谷川

 昨年と比べて、雪が少ない。昨年の今頃は、大谷川まで入れなかった。気温はマイナス5度だが、それほど寒さを感じない。立岩貯水池の水量が減って、湖の岸が大分露出している。

ウスタビガ?

 大谷川右岸の山道へ入り、急なスギ林を登る。スギ林から雑木林に変わり、山上に日が差し始めたところで、平坦な尾根に出た。葉の落ちたクロモジの枝に、黄緑の繭がぶら下がっていた。ウスタビガの繭に似ている。40分ほどで712ピーク。イノシシが地面を掘り返している。林間から、岩崖のあるキリイシのタキが光り輝いている。712ピークから少し登ると、大岩があり、キリイシのタキへ上がる尾根を見渡せる。南側は日の平山が見える。

 ヤセ尾根になると、潅木の山道となる。登るに連れて雪が残っている。十方山の稜線が見えてくる。キリイシのタキにある展望岩も肉眼ではっきりと見えてくる。西側に十方山登山道の三ツ倉が間近に迫る。登山者がいれば、見えるほどの距離である。三ツ倉の左に、冠山がはっきりと見え、その左に女鹿平山の大きな山容がある。

 2時間ほどで1085ピーク。そこからほどなく、コノタのギシ付近の十方山登山道に出た。登山道の雪は少なく、地面が出ているところもある。ほどなく稜線に出た。珍しく風が無く、穏やかな天気で、日が照って暑いほどである。

 この時期、ササ原が雪の下に没して、どこに道があるか分からないのだが、登山道の白帯が、ササ原の間を縫って、山頂に向かっている。今日は展望が良い。恐羅漢山から五里山へつづく尾根を見渡すことができる。その先には広見山から半四郎山の尾根が続いている。

 大谷川入口から4時間ほどで十方山到着。もう少し時間がかかると思っていたが、案外と早かった。山頂でコーヒータイムとした。日陰では気温は3度だが、日差しに向かって座っていると、13度まで上昇した。暖かい静かな山頂だった。

キツネの足跡?

 雪景色をカメラに納めて、奥三ツ倉に向かった。奥三ツ倉の左に、苅尾山が覗いている。内黒峠へ向かう登山道には踏み跡がない。その代わり、キツネのような足跡が続いている。キツネも登山道の方が歩きやすいのだろう。論所の抉れた谷を渡り、ブナの林を通り、20分ほどで奥三ツ倉。奥三ツ倉は登山道から50mほど東に入った、大きな岩のピークのことである。「西中国山地」にある三ツ倉の地名は、この周辺に四つある。奥、中、前の三ツ倉と瀬戸滝から上がる十方山登山道の三ツ倉である。共通した特徴は、いずれも岩のピークになっていることである。

 登山道から一歩足を踏み入れると、ササの薮である。幸い、ササは雪の下に沈みつつある。奥三ツ倉の大岩の横を通り、キリイシのタキへ降りる尾根を下る。この尾根道は大きなブナが多い。30分ほどで1215ピーク。さらに下ってキリイシのタキの上部に出ると、岩の峰が続く。この岩の峰の幾つかの地点に、展望の良いところがある。この辺りの岩峰は1100m標高である。十方山のササ原の平原を間近に見渡すことができる。直下は大谷川へ落ちる崖になっている。一番下の展望岩は立岩貯水池を見下ろす。立岩山が目前である。すぐ横に、キリイシのタキの岩肌がある。

 キリイシのタキを過ぎると雪は少なくなる。ヒノキ林の急な下りとなる。展望岩から1時間半ほどで、カヤノガ峠に下った。峠から押ヶ垰のケルンバットのコブが見える。押ヶ垰断層は押ヶ垰のケルンコルとカヤノガ峠を結ぶ線を通っている。カヤノガ峠の東はコブになっており、ケルンバットを形成している。

 カヤノガ峠を下る踏み跡がスギ林の中に残っている。踏み跡を降りてみた。道を辿ると、壊れて今にも倒れそうな神社跡に出た。大谷川川口は集落があったところだが、ダムによって水没し、離村を余儀なくされた。吉和から本郷へ抜ける大田川沿いの道は、道路ができるまでは、神社の前を通り、カヤノガ峠を越えていたと思われる。奥三ツ倉から3時間ほどで、大谷川入口に帰着した。

カヤノガ峠から見た押ヶ垰のケルンバッド
倒れそうな神社跡 大谷川左岸



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カシミールデータ
総沿面距離10.4km
標高差810m
累積標高+1281m

区間沿面距離
大谷川入口
↓ 3.6km
登山道合流
↓ 1.4km
十方山
↓ 0.9km
奥三ツ倉
↓ 1.6km
キリイシのタキ
↓ 2.9km
大谷川入口

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地名考

●カヤノガ峠

 立岩貯水池の対岸からカヤノガ峠を見ると、キリイシのタキから降りる尾根の先端に位置する。立岩貯水池があるため、谷の様子が分からないが、キリイシのタキから降りる尾根に押し出されるように、峠の先端の現在のダム付近で、谷は大きく曲がっている。

 アイヌ語の呼び名に近い地名に以下がある。
 kaya-noka カヤ・ノカ 「帆の・形」
 kaya-not-ka カヤ・ノッ・カ 「帆の・岬の・上」

 北海道に茅部がある。アイヌ語の、
 kaya-un-pe カヤ・ウン・ペ
 「帆・の・処」の意。

 本茅部村にあった本茅部岬が、カヤウンペと呼ばれた崖のあった所だと言う。カヤノッカがカヤノガ峠の地形に近いように思われる。

カシミール・カシバードで見たカヤノガ峠

●キリイシのタキ

 
キリイシのタキは、立岩ダムから奥三ツ倉に上がる尾根の中ほどにある岩崖であって、滝ではない。キリイシのタキは展望が抜群で、立岩貯水池と大谷川を眼下に見下ろすことができる。十方山と立岩山の中間にあるこのタキからは、立岩山が間近に迫って見える。

 「吉和村と戸河内の境界尾根となっている奥三つ倉の南尾根を、押ケ垰ではナガオのミネと呼び、下山ではナガオのオカと呼んでいる。『戸河内森原家手鑑帳』には、切石の尾とある。ミネ、オカ、オという地形方言は、尾根の意であることは論をまたない。この尾根にある切石の懸崖(タキ)、カヤノガ峠の名は、『手鑑帳』にも記されている古い地名である」(「西中国山地」桑原良敏)。

 キリイシのタキについて、「吉和村誌」に以下の内容がある。
 「長尾の岡の中ほどに切石の滝(水はない)があり、末端域を茅野が峠といい戸河内への道。切石のキリは花崗岩の事で、石材を切り出したもの、ここでは境石であろう。戸河内では長尾の岡を切石の尾という」(「吉和村誌」)。

 キリイシのタキから石を切り出したとは思われないが、キリイシの呼び名に近いアイヌ語に以下がある。
 kir-uske キリウシケ 「見覚えのある所」
 kir-usi キリウシイ 見覚えのある・所
 kir-o-ru キロル 踏み分け道
 kiro-ru キロル 山道

 抜群の展望は、黒ダキ山の東にある「ゴロシのタキ」よりも眺めが良い。
 inkar-us-i インカルウシ 「眺める・いつもする・所」の意のようにも思われる。

●三ツ倉

 pet-kus-utur-us-tapkop
 ペッ・クシ・ウトル・ウシ・タプコプ
 川の・向こう・の間・にある・タンコブ山

●ホン谷・本谷

 「ホンタニ」と呼ぶ地名は、「西中国山地」に20ヶ所ほどある。何れも谷の上流にある。「ホンエキ」「本エキ」の地名は9ヶ所あり、やはり谷の奥にある。

 「西中国山地」に、本流の谷の地名の頭に「ホン」を付けた支流の地名が5ヶ所ある。「ホンタニ」の意味を考える手がかりとなる。

★ホンサル谷とサル谷
 大箒山へ南から上がっているのがサル谷で、その支流にホンサル谷がある。サル谷はアイヌ語で、
 sar-us-nay サル・ウシ・ナイ
 「葭原・ある・川」の意。
 
 ホンサル谷は、
 pon-sar-us-nay ポン・サル・ウシ・ナイ
 「小さい(方の)・サル谷」の意。

★ホンミギ谷と右谷川
 莇ヶ岳の東に上がる本流が右谷川で、その上流にホンミギ谷がある。右谷川はアイヌ語で
 pikew-un-tun-ni-kar-us-pet
 ピケゥ・ウン・トン・ニ・カル・ウシ・ペッ
 小粒の石・ある・柏・木を・取る・いつもする・川

 ホンミギ谷は、
 pon-migi-pet ポン・ミギ・ペッ
 「小さい(方の)・右谷川」

★ホンノボリとノボリ
 白旗山の南の1037ピークの東にノボリがあり、その支流にホンノボリがある。ノボリはアイヌ語で、
 nupuri-pet
 ヌプリ・ペッ
 山の・川

 ポンノボリは、
 pon-nupuri-pet
 ポン・ヌプリ・ペッ
 山の・小・川

★本横川と横川(ホンヨコゴウとヨコゴウ)
 三段峡を流れる柴木川が、葭ヶ原で八幡川に分かれる所が、横川川の始まりである。横川川は上流で奥三段峡に分岐し、古屋敷の下流辺りを本横川と言う。横川川はアイヌ語で、

 横川川 ヨコゴウカワ
 yoko-kotan-pet
 ヨコ・コタン・ペッ
 獲物を狙う・村・川

 本横川は、
 pon-yoko-kotan-pet
 ポン・ヨコ・コタン・ペッ
 小さい方の・獲物を狙う・村・川

★本多田と多田(ホンタダとタダ)
 湯来温泉の奥に多田があり、その奥に本多田がある。多田の呼び名と地形に近いアイヌ語に、
 tartarke-i タッタルケ・イ
 「激しい流れの瀬」「たぎつせ」の意がある。
 
 本多田は、
 pon-tartarke-i ポン・タッタルケイ
 「小さい(方の)・多田」の意。

 本多田の南に小多田(オタダ)がある。
 o-tartarke-i オ・タッタルケ・イ
 「川尻の・激しい流れの瀬」の意。

 北海道の川の支流のアイヌ語地名に、pon+本流地名がある。その意は「小さい(方の)本流地名」である。

 「ホンタニ」「本谷」が谷の奥にあるのは偶然ではないだろう。おそらく、昔は「ホン+本流地名」の名で呼ばれ、その意は、「小さい(方の)+本流地名」であったと思われる。

 もっとも、本流と関係ない「ホンタニ」は、ただの「小さい谷川」の意であろう。あるいは、hon-tun-nay ホン・トゥン・ナイ 「腹の・谷川」の意かもしれない。

 大谷川(オオダニゴウ)の水源にある本谷は、「小さい(方の)・大谷川」の意と思われる。大谷川も、その水源の本谷も、大きな石がゴロゴロした谷である。

●「ゴウ」と呼ぶ「川」の地名

 「西中国山地」に「川」を「ゴウ」と呼ぶ地名に、以下がある。
 大谷川(オオダニゴウ)・横川(ヨコゴウ)・赤川(アカゴウ)・中ノ川(ナカノゴウ)・砥石川(トイシゴウ)など。
 その他に、クリヤゴウ、ツゴウ、コゴウ、フタゴウなどもある。

 「川、河、江をゴウと読むのは古称でガワと読むのは近代的。戸河内はトゴウチ、戸河内周辺では横川、赤川、砥石川、大谷川など古称が残っている」(「西中国山地」桑原良敏)。

 「ゴウ」の呼び名は古く遡るようである。アイヌ語に「ゴウ」に近い呼び名に ukaw ウカゥ がある。「石が重なり合っている所」の意がある。私が歩いて見た、大谷川、横川、砥石川、赤川などは、大きな石がゴロゴロしている谷である。西中国山地では、「ゴウ」は「kotan」コタンの意のようである。
 

キリイシのタキ
十方山 キリイシのタキから
市間山と立岩山 キリイシのタキから

立岩貯水池とカヤノガ峠 キリイシのタキから
キリイシのタキの岩崖と十方山
登路(青線は磁北線 薄茶は900m超 茶は1000m超)